コラム
ap bank fes '25 コラム ラダックの大地に描かれるアートと環境の未来

ap bank fes '25のオフィシャルグッズに参加してくださった淺井裕介さん。さまざまな土地の土を使って作品を作られている浅井さんですが、今回グッズデザインしてくださるにあたって、その前に訪れていたラダックでの制作が影響しているとの話を伺いました。そのラダックでのお話がとても素敵だったので、そのプロジェクトのことを中心にインタビューさせていただきました。
――今回初めて「ap bank fes '25」のグッズデザインに参加されたと思いますが、デザインコンセプトについて聞かせてください。
淺井裕介(以下、淺井):
今回のデザインコンセプトは「命の変質性」です。小林武史さんが代表をされている千葉県木更津市にある施設、クルックフィールズをはじめ、さまざまな土地で採取した土と水彩絵の具を使い、「生きることは変化するということ→考え続ける必要があるということ」から自然と生物のつながりを表現した絵を描きました。
表面には、人と獣が向き合う蝶のモチーフを描き、裏面には「ap bank fes '25」の文字の中に、連綿と続く命の連なりを感じさせる図像を取り入れています。


――ラダックでのご経験がグッズデザインにも影響を与えていると伺いました。
淺井:ラダックの地に身を置き、自然や人々と向き合う中で、環境とアートの関係について改めて考えさせられました。 ラダックの風景は刻一刻と変化し続け、その流れの中で、私たちはどのように関わり、どのように表現していくべきなのか。
今回のデザインでは、「ap bank fes」の文字そのものを絵として表現することにしました。文字は単なる記号ではなく、象形文字のように視覚的な要素を持ち、意味を超えた表現の力を持ちます。生き生きと踊るような文字の形を描くことで、動きや生命の躍動を表現しようと試みました。
それは、単に何かを作るのではなく、その土地の持つエネルギーや物語をどう受け取り、どう対話していくかという行為に近いと感じます。
「フォレストアートフェスティバル in ラダック 2024」 のプロジェクトでは、ラダックの大地に「風」「土」「水」をテーマとした3つの地上絵を描きました。「風」は地形を変え、文化を運び、「土」は多くの命を育みながらも、その流れの中でさまざまなものをのみ込み、この美しい土地の歴史を刻んでいきます。そして「水」は、この厳しい環境の中で命を支える貴重な存在です。
プロジェクトには、日本からのアーティスト6名と現地のアーティスト達を含む、ボランティアも多く参加しました。ラダック各地で採取した土で描く泥絵や、4000個以上の日干しレンガで作られた200m級の地上絵など、自然の色彩を生かして描くことで、「この場所で生まれてくるべきもの」を模索しました。私はものを作ること/情報を発することは必ずしも良いことだとは思っていません、その過程の中で何を考え続け、「言葉や情報にならないどうしようもなく生まれてくるもの」をつくり残すことができるのか、それは難しいことですがそこにアートの価値や人がものを作るという挑戦があると思います。
ラダックの地上絵プロジェクト
――2024年8月に、ラダックの広大な大地を舞台に、全国のアーティストや現地の人々と協力し、地元の土を用いて地上絵を描く大規模なプロジェクトを実施されたとのことですが、まずラダックとはどのような場所であり、なぜこの地でアートプロジェクトを行うことになったのかお教えいただけますでしょうか。
おおくにあきこ(以下、おおくに):
ラダックは、インド北部に位置する標高3,000メートル以上の乾燥した山岳地帯です。ヒマラヤ山脈に囲まれ、敬虔なチベット仏教徒が多く、地域ごとに寺院が点在する「祈り」の地であり、独自の文化が息づいています。しかし、近年の気候変動により、その環境は急激に変化しています。かつて雪に覆われていた山々も温暖化の影響で根雪が減少し、住民の生活に直接的な影響を及ぼしています。
本プロジェクトは、ウォールアートプロジェクトが主催する「ウォールアートフェスティバル」の一環として実施されました。2010年からインドの農村部の学校を舞台に芸術祭を開催し、アートを通じた教育や環境問題への意識向上に取り組んできました。アーティストと地域住民が協力をしながら作品を創り上げることで、アートの持つ可能性を広げ、ラダックの地域の活性化や環境問題に目を向ける機会を作りたいと思います。
フォレストアートフェスティバル:Forest Art Festival in Ladakh 2024 digest
ラダックの環境変化と遊牧民の暮らし
――ラダックでは気候変動の影響が深刻化しているとのことですが、実際に現地を訪れて感じた「変化」はありますか。
淺井:私は、今回二度目のラダック往訪になりますが、2017年に訪れたときと2024年に再訪したときでは、街の景色自体に大きな変化がありました。それにはお隣の中国との関係性や2019年に連邦直轄領となったことが大きいのだと思いますが道路がアスファルト化され、インターネットが普通に使えるようになり、都市化が急速に進んでいる印象を受けました。かつては、伝統的な暮らしが色濃く残る地域でしたが、気候変動も含めて生活環境が大きく変わりつつあることを実感しました。
おおくに:ここ数年での気候変動の影響は顕著です。標高4500メートル付近を訪ねると、かつて視界全体に広がっていた根雪が、気温の上昇とともに溶け、雪解け水の減少が進んでいました。地下水脈が変わり、春になっても十分な水が確保できないため、農業や放牧に影響を及ぼしています。
3月になっても十分な雪解け水が確保できず、「種まきの季節に大人たちが争うのがイヤ」と子供たちがこぼしていました。遊牧民にとっても、家畜たちの餌となる緑の草の減少は深刻で、遊牧生活を断念する人も増えています。
こうした状況に対応するため、2024年8月に6000本の柳の木と100本ほどの野生のバラを植えるプロジェクトを実施しました。これは、水源の確保や土地の保全が目的でありつつ、苗木が森になっていく姿を見守るという人類共通の喜びや期待を、ラダックという小さな場所から世界へ向けて広げる、少し壮大すぎるかもしれませんが、そこを最終ゴールとした取り組みです。そこでアートがとても重要な役割を果たします。
――今後も、現地の人々や環境問題への支援は継続していく予定でしょうか。
おおくに:はい、決して簡単な道のりではありませんが、継続していきたいと考えています。現在は、現地を訪れなくても支援に参加できる仕組み を整えるため、My Treeプログラム を推進しています。このプロジェクトでは、苗木の寄付を通じて森の成長を支援し、その過程を見守ることができます。 参加者の名前が描かれた テラコッタ製のプレート を木の根元に設置し、定期的に植樹地の様子や木の成長記録を共有することで、遠方からでもプロジェクトに関わることが可能です。ラダックを訪れることができなくても、環境再生の一翼を担うことができるのがこの取り組みの特徴です。
気候変動の影響を直接受けるラダック地方において、森を育てることはCO₂削減にとどまらず、地下水脈の保全や生態系の回復にも大きく貢献します。 特に、古くから植林の技術を受け継ぐマトー村(Matho) の人々と協力し、地域社会とともに持続可能な森を育てる活動を続けています。この森づくりが、未来のラダックの環境と人々の暮らしを支える大切な基盤となり、広がってゆくことを願っています。
My Tree プログラム My Tree サポーターズ 2024
未来への展望
浜尾和徳:インドでのアートプロジェクトは、環境再生と地域社会との協力を軸にした意義深い取り組みですが、まだ十分に認知が広がっていないという課題があります。多くの人に知ってもらい、共感し、参加してもらうことで、この活動をより持続可能なものにしていきたいと考えています。
おおくに:やって終わりではなく、継続することが何より重要 です。このプロジェクトをさらに発展させるためには、より多くの人に関心を持ってもらい、「自分ごと」として捉えてもらうこと が不可欠です。支援の輪を広げながら、地域とともに歩む持続可能な未来を築いていきたいと思います。
アートには、人の心を動かし、環境問題を「遠い国の出来事」ではなく、私たち自身の生活と密接に結びついたものとして意識させる力 があります。このプロジェクトを通じて、世界のどこかで起きている環境の変化が、決して無関係ではないことを感じてもらえたら嬉しいです。そして、小さなアクションの積み重ねが、大きな変化を生み出すことを信じています。
ウォールアートプロジェクト Official Web Site http://wallartproject.net
対談参加者
● 淺井裕介(美術家)
● おおくにあきこ(特定非営利活動法人 ウォールアートプロジェクト)
● 浜尾和徳(特定非営利活動法人 ウォールアートプロジェクト)
ap bank fes ’25オフィシャルグッズはオンライングッズストアにてご注文受付中!(2025/3/16まで)

