|
|
 |
|
 |
 |
| 最終日です。今日でap bank fes 05も終わり、このレポートも最後です。そんな特別な日のレポートは、「直前リハーサル」から始めたいと思います。 |
|
 |
13時から、某所でBank Band with Great Artistsの最終リハーサルが行なわれた。みんなで円を囲みながら、なごやかにリハーサルは進行していった。
あるアーティストがふといつもと違うフレーズを弾いた。簡単に言えば、「ミス」である。しかし、そのアーティストは「俺ならこうやるね」と言った。この一言にすべてのメンバーは大きく笑い合ったのだった。そう、このBank Bandはそれぞれ「自分の音楽や音」を確立したアーティストの集合体だ。「違うフレーズ」は間違いではなく、「俺ならこうやるフレーズ」なのだ。「俺ならこうやる」を持っているアーティストだけで集まり、その中で一つのルールが生まれ、そのラインの上で音を鳴らし合う―――もの凄く素敵で贅沢なバンドだ。だからリハーサルもまた、とても面白いセッションが繰り返されたのだった。
ずっと前から、Bank Bandは東京で何度も何度もリハーサルを繰り返してきた。もちろん、Great Artistsも一緒にだ。これだけの強者メンバーにもかかわらず、「こんなにリハを重ねたのは初めて。キツかった(笑)」というメンバーまでいたほど、リハを重ねてきた。そしてさらにこの3日間もずっと、Bank Band with Great Artistsは超直前リハを重ねてきたのだった。この3日間で鳴らされたライヴは、そんなシビアな活動の結晶だったのだ。
しかも直前リハにして、まだアレンジがどんどん変わっていく。ある曲をやろうとした時、小林武史がアコースティック・ギターを持った櫻井にこう言った。―――「オーディエンスはここできっと盛り上がりたいと思うんだよね。だからアコギじゃなくて、エレキでもっと突き放して、ノリ出していったほうがいいんじゃないかなぁ?」。そしてエレキに持ち替えた櫻井が「ジャーンッ!!!」と派手にギターを鳴らした。するとピアノのアレンジが変わり、リズム隊のグルーヴも変わり、多くのメンバーが楽譜に「駆ける」と書き記した。バンドというのはかくも素敵なコミュニケーションを交わすものなのだ。
浜田省吾の圧倒的な存在感と、音楽家(ここではバンド・メンバー)を愛する誠実な気持ち。そしてCharaの、「世界が広がる感じで」の一言でメンバーみんなの向かう方向性がバシッと決まる天然プロデューサーっぷり。そういったアーティスト同士の音と音のやり取りを経て、Bank Bandのこの夏最後のリハーサルが終わった。
最終日は、今までで一番暑い日となった。ライヴ・エリアの参加者の服装も、1日目や2日目と比べてホワイト・カラーが多い。みんな、今日の天候と自分の付き合い方をわかっているようだ。灼熱の下、水分を摂ったり、うちわで扇いだり、涼しい会話をしながら参加者がフィールドを埋めていく―――そんな15:40、バック・ステージでは凄い話が進んでいた。
「最後だ、もう1曲やろう。“HERO”をやろう」
小林が櫻井に、そう進言したのだった。前日と比べて時間的に余裕があったり、最終日であったり、いろいろな要素があったと思うが、本当の気持ちはもっともっと奥底にあるはずだ。大事な歌を大事な場所で届けたかったのだろう。
実際に“HERO”は今回のセットリストの候補曲であり、リハーサルで何回か鳴らし合った曲でもあった。しかし、今日のリハで合わせていないし、気持ちの用意もできていない。しかも何年もこのバンドでやり続けている曲でもないのだ。だから櫻井は小林の進言を聞きながら、暫くのあいだ迷っていた。しかしその2人が背中を丸めて語り合った約1分後、すべてのスタッフがバックステージをダッシュしながら、進行に大幅なアレンジを施し始めた。――――“HERO”を鳴らすことになったのだ。
16:00、最終日のライヴが始まった。 |
|
| 猛暑の中、椅子に座ってアコギを抱えた櫻井から、涼しい音が鳴り出した。そして「僕の家へおいでよ」と歌い始めた。そう、このオープニング・ナンバー“プロポーズ”はそのまま、bank fesのプレゼンター・バンドからのウェルカム・ソングなのだ。1音1音がクリアな演奏の中、はっきりと歌詞が聴き取れる櫻井のヴォーカルが響く。みんな、自分が特別な時間に、特別な場所で、特別なパーティーに招き入れられたことを心の底から喜び、共有の意を示すようにステージに拍手の嵐を浴びせ掛けている。 |
 |
 |
| 小林武史 |
|
|
|
 |
| 櫻井和寿 |
|
 |
スウイング・ジャズのようなリズムの“ストレンジカメレオン”が始まる。天気の具合によって曲の聴こえ方が変わるのが(曲の鳴らし方も変わるのだろう)、野外フェスのダイナミズムだ。暑さ極まる今日の“ストレンジカメレオン”は、明らかに陽性な曲として、僕らに届いた。参加者も暑さや陽光の眩しさと心地よいやり取りをしながら、すべての神経をステージとそこから発せられる音色に向けている。そんなピュアなやり取りに天気が気をよくしたのか、ステージに向かって右から左へ、爽やかな強い風が吹き始め、一気に過ごしやすくなった。太陽、風、温度、参加者、アーティスト、グッド・ミュージック………今、ここにすべてが集まっていると錯覚した人は、参加者の表情を見る限り筆者だけではなかったようだ。櫻井も「ありがとう みんなと出会えてよかった ありがとう ありがとう ありがとう」という歌詞に意識を強く深く詰め込んで、参加者に飛ばしていた。
Bank Bandナンバー
●プロポーズ
●ストレンジカメレオン |
|
|
「暑いでしょ! 具合悪くなったら、すぐさま救護室へ来てくださいね。暑い中、サッカーなんてやってると僕みたいになるので、本当に(笑)。もし救護室へ行ったとしても、救護室まで届くように歌いますので、よろしく(笑)」
そんな丁寧なまでに自分を貶めたMC(2002年に体調不良でリタイアしたことを話していたのだ)の後、櫻井が一青窈を招き入れた。
「元気ですか! 嬉しいなあ」と話した直後、一青窈のキラー・チューンと呼ぶべき“もらい泣き”猛暑Ver.が始まった。天候と参加者の笑顔によって、曲の持っている終わりなき哀しみのような表情に、温度と至福が溶け込んでいく。一青窈もステージの端まで動きながら、全身を漂うように揺らして歌っている。フェスという空気が曲のスタイルを変えていった。
「今まで見た中で一番ラヴ&ピースな光景が広がっています。すっごい幸せそうです。この先も(私達は)ずっとずっと大丈夫です。………あなたとあなたの好きな人が100年続きますように―――そう願って歌います」
素晴らしき四家卯大カルテッドのストリングスと山本拓夫のソプラノ・サックスの調べに導かれた天空バラッド“ハナミズキ”が歌われた。その時、前にいたサッカー日本代表のユニフォーム―――流石、ジュビロ磐田のお里だ。ゼッケンはもちろん10番、名波の名前が背中に刻まれている―――を着た男性が、隣の女性と手を握り合っていた姿が印象的だった。
一青窈ナンバー
●もらい泣き
●ハナミズキ |
 |
 |
| 一青窈 |
|
|
|
 |
| Salyu |
|
 |
続いて櫻井が招き入れたのは、満面の笑みを浮かべた幻想の歌姫、Salyu。今日は何も語らずに笑みを浮かべたまま、イントロを待っている。デビュー・シングルである「はじまりの歌」、“VALON-1”を、ここで歌う意味を噛み締めるようにイントロが鳴るのを待っている。そこに小林のピアノがドアを開けるように入ってきた。今回の出演アーティストの中で最も初々しい存在のSalyuは、この最終日に雰囲気や言葉ではなく、たおやかな歌声だけで参加者と向かい合った。きっとSalyuはこの日、歌の力の破片を見つけたのだと思う。
Salyuナンバー
●VALON-1 |
|
|
日本のパンクの雄、ザ・ブルーハ―ツの名曲が、Bank風の多重なアンサンブルでプレイされた。しかも一青窈とSalyuの女性コーラスを従えてという斬新な編成。しかし、名曲は1曲の中で多くの印象的な断片を持っている。だからこそ、すぐに“情熱の薔薇”と察知した多くの参加者から歓声が沸き、その歓声が8ビートの手拍子に姿を換えて一体感が生まれた。その手拍子に乗ってバンドのグルーヴもトップギアに突入。コーラス隊の2人もスカートをたくし上げ、ほとんどポゴ・ダンス状態でアップアップアーップ! 参加者溢れるフィールドからは、砂埃が舞い上がった。今日のつま恋は、ハイ!にとどめが無い。
BankBandナンバー
●情熱の薔薇 |
|
| 「暑い? ちょっと待って」と話し、櫻井がステージから消えた。戻ってきた櫻井の袂には、巨大容量水鉄砲が携わっている。すぐさまステージから大発射!! 参加者みんな「もっとかけて! 私にかけて!」と連呼連呼。連呼に応え、櫻井かけまくり。しかし、発射される水が、惜しくも最前列まで届かない。「届かない!! 気持ちだけが……気持ちだけが……」ともどかしそうに、それでも発射し続ける櫻井。なおも「かけてかけて、もっとかけて〜!」と煽る参加者女性陣と、若干の好きもの男性陣。―――ある意味、とてもセクシャルな水鉄砲を通じた「レゾナンス=共鳴」が成立し、そのままスキマスイッチがステージに迎えられた。 |
 |
 |
| スキマスイッチ |
|
|
「紹介します。男性2人組です。まるで子分が2人できたような気持ちで、リハを気持ちよくできました」
そんな櫻井のMCで登場したスキマスイッチの大橋卓弥(Vo)と常田真太郎(PIANO)の2人は、まさに全力ポップを惜しげもなく表現した。そのあまりにもな惜しげなきパワーが、瞬時に空間を一つにさせた。スキマは櫻井の子分のみならず、Bank Band全員に宿った「新しい種」のような存在らしく、バンドの演奏が俄然フレッシュな思春期性をもたらし始める。
そのままもう1曲しっとり歌い上げた後、櫻井が「今回のすべての楽曲で、一番ハモリが難しかったのが“全力少年”。大橋くんにいろいろ教えてもらいました」と話すと、今度は大橋が「何回も歌いましたよね、『櫻井さん、違いますよ。こう歌ってください』ってね」と無敵な喋りをかます。そんなギャグの掛け合いの後、「今からやるのは、3人(スキマの2人と櫻井)で作った曲ですよね(笑)。新鮮に聴こえると思います」といたずらな表情で櫻井がおどける。すると懲りない大橋が、「この曲、僕のほうが(櫻井より)歌っていますよね」と突っ込んだ。
そんな漫才の後、ジャジャーン!とイントロが鳴り始めた。みんな、すぐにわかった。待ってましたのMr.Childrenナンバー、アンセム中のアンセム“虹の彼方へ”だったのだ。――――すぐさま咲いたよ、花が。参加者の地べたの芝生から、参加者の喜びの養分を吸い取って、ひまわりのような嬌声の花が咲き誇った。まるで自分の学校の校歌を歌うように、みんなが口を大きく開けて歌っている。素晴らしい瞬間だった。曲が終わった瞬間、ガッツポーズを決めたのは櫻井ではなく何故かスキマの大橋で、本当にこいつは美味しい所を持っていくラッキー・マンだなと思ったが、その大橋こそが参加者に劣らずのディープなMr.Childrenフリークだったことを知る者は意外と多い。言うなれば、この時の大橋は「参加者代表」だったのだ。
スキマスイッチ・ナンバー
●全力少年
●奏
●虹の彼方へ |
|
 |
| Chara |
|
 |
「すがすがしい! 無理やりMr.Childrenのカバーをやってもらいました。……いいね、今日(笑)……やっと肩の力が抜けた頃が最終日ですからね(笑)。続いてのゲスト、世代的には僕とほとんど同じ、かな? Charaです」
赤いドレスにカーリーヘアーをなびかせ、Charaが現れた―――途端に「カワイー!」と、参加者の大合唱。そんな中、いきなり独特のシュガー・ヴォイスで空間を支配するChara。意外だったのは、コーラスを務めた櫻井との見事なハーモニーだ。お互いに個性が強いヴォ―カリストなのは誰もがわかっていることだが、不思議ととても波長が合っている。それは声質や技術論を超えた―――まるで夫婦みたいな、生命の絆の関係が成立しているハーモニーだった。
Charaの歌は、鳴らしている者も聴いている者も瞬時に虜にする神秘性を持っている。つまり、リスナーやアーティストとすぐに関係を成立させるのだ。それが彼女の自然力であり、その強靭な自然力が、こういう環境で魅惑のパワーを発揮するのだろう。このフェスにふさわしいアーティストの幸福なる出演だった。
「はじめまして、チャラリンです」、そう告げながら宇宙の星のようなシンセ・サウンドと小林武史のピアノが織りなす世界で、再び心地よさそうに歌う。小林のピアノがとても強い音波を発している。YEN TOWN BANDを共にやっていたからこそ、Charaの表現性が愛しくて大切なのだろう。そして、最後にあの歌が始まった――YEN TOWN BANDの“Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜”だ。櫻井という新しい歌のパートナーが混ざった、まさに愛の歌だ。「心に 心に 魔法があるの」―――Charaが歌った歌詞だが、まさにここに魔法が降り注いでいた。とても静かな、そして透明な魔法が鳴り響いていた。
Charaナンバー
●ミルク
●光の庭
●Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜 |
|
|
「……えー、Charaの世界に惹き込まれてますが」という、“それは自分だろ”と突っ込みたくなるMCを櫻井がすると、最前列の参加者が「そう、すごい不思議な感じだった」と話していた。そして今日もここで櫻井のサッカー友達にして、フードエリアでのトーク・ショーなどで八面六臂の活躍を見せたヒップホップ・セニョール、GAKU-MCが招かれた。今日もGAKUは「apはオーディエンス・パワーだ」と参加者を煽り、「先生、KAZU-MCよろしく!」と櫻井を煽り、「小林番長、行きましょうか!!」と小林武史を煽って曲が始まった。
「変えるのはキミなのです キミなのです」―――そんなまさにこのフェスのメッセージ・ソングたりえるリリックを歌いながら、どんどん興奮を募らせていくGAKU。そのパフォーマンスのクライマックスは突然訪れた。最後のサビでステージから飛び降り、最前列の前を駆け抜けたのだ。それに対応した櫻井がステージを駆け抜ける。すると今度はコーラスの一青窈とSalyuが水鉄砲抱えて右に左に大発射!!! ベースの亀田誠治はチョッパーでファンクに磨きをかけ、ギターの小倉博和は楽器と共にウサギのように飛びまくる――――もう、弾けまくりの大宴会!! これだ、これがパーティーなのだ!!!
GAKU-MCナンバー
●昨日のNO,明日のYES |
 |
 |
| GAKU-MC |
|
|
|
 |
| 浜田省吾 |
|
 |
灼熱の時が終わった。
「ちょっと呼吸を整えさせてください。……私もデビューしてずいぶん経ちまして、スキマスイッチもアマチュアの頃からMr.Childrenを聴いてくれていたそうですが、次の方は僕が中学の時から聴いてきて、人間的にもあったかい方で、『こーいう大人になりたいなあ』と常々思っていた方なわけですが………わかってますよね、名前を教えましょう(笑)。浜田さんとは前に対談したことがあって、その時に『一緒にステージに立ちたいね』と言ってくれたんです。でも僕はその時は立ちたくなくて………その時の僕はコンサートで音楽をやっている気がしなくて、レコーディングでご一緒したいと答えたんです。……あれから何年も経って、今、僕はここでみんなとこうやって音楽を楽しめるようになりました(笑)。今なら、楽しくできる気がします。――浜田省吾さんです」
感極まった心を抑えるようにゆっくりと語った櫻井に導かれ、浜田省吾が登場した。
万感の拍手に迎えられた浜田は、その存在感すべてをBank Bandが発する音に差し出し、そして歌い始めた。
凄い歌だった。静かなのにホットな、繊細なのにタフな歌だった。マイクの前で細かく首と唇を左右に振り、繊細極まりない歌のトーンとアクセントを変えていく。凄まじいレベルで精神力と技術力がくちづけを交わしていた。時にバンドに合わせてシャドー・ギターのアクションを入れ込んでいく。そのバンドに飛び込んでいく浜田の魂が嬉しかったのだろう、山木秀夫のエンディングのドラムロールが驚喜の音色を叩き続けていた。
「はじめまして、浜田です。ap bank fesにこうして参加できて嬉しいです。小林さん、櫻井くん、バンドのみんな、スタッフ、そして(参加者の)みんな、どうもありがとう」
―――歌い方もMCの挨拶も、すべてが丁寧かつホットなアーティスト、それが「今なお疾駆し続けるレジェンツ」、浜田省吾だった。
サングラスの裏側から放つ、無限のエネルギーのストーリー・テラー、浜田省吾。彼の音楽は、「挫折と希望」の世界だ。そんな歌は言ってみれば溢れるほどあるし、きっと今日も新しい挫折と希望の歌は生まれている。でも浜田省吾の歌は他のそれとは違う。挫折の痛みも、希望への執念も、それを歌に込める重みも、すべてが違うからだ。その違いが、浜田省吾の音楽にプレシャスな優しさを生み出している。そしてその優しさが、リスナーの意識を変えていくのだ。小林と固い握手、そして櫻井とあたたかい抱擁を交わし、浜田は去っていった。
浜田省吾ナンバー
●マイホームタウン
●Thank you
●家路 |
|
|
|
「何も言うことないね」と話し、小林に合図を送って、この日だけの1曲が始まった。
“HERO”だ。
「ずっとヒーローでありたい ただ一人 君にとっての」―――「誰かを守りたい」という、その「誰か」という存在は、人間にとってとても必要だ。誰かという存在が、無償の行動を促す根源的な力となるからだ。そんなことを思わせる名曲がこだました。
曲の後半のブリッジの部分で、櫻井の声がかすれた。最初は3日間歌い続けた彼の喉が変調を起こしたのかな?と思ったが、それは大間違いだった。かすれた「声」以上に、櫻井の「表情」が変調を起こしたからだ。
櫻井は泣いていた。
くしゃくしゃになりながら、本人も制御できない感情の洪水が彼に涙を流させていた。――そして櫻井は歌えなくなってしまった。
ライヴの中でこれだけ気持ちを制御できなくなった櫻井は、間違いなく初めてだった。2002年の12月に彼自身の復活を告げる一夜限りのライヴがあったが、その時も櫻井はいたって冷静だった。何故ならば櫻井は、ライヴというのは感情だけに振り回されず、意識をコントロールすべき場所だという信念を貫き通してきたアーティストだからだ。それは今もきっとそうだ。
しかし。
櫻井はここで涙を流し、自らが生み出した楽曲の世界に惹き込まれていった。
ap bank fesはそれだけ彼の表現の根源を揺さぶる時間だったのだろう。これだけの活動をし、これだけ成功を収め、これだけ苦悩してきたアーティストが、今ここで感情を超えた涙を流す――――なんて幸せなのだろう。櫻井も、そしてこの時、この場所にいたすべての人、そして彼の歌に心を揺さぶられた人、みんな幸せだ。この涙は幸せの涙だ。
“HERO”が終わった後、鼻をすすりながら―――最前列にまで届く音で鼻をすすりながら、櫻井は小林に次の曲のイントロを要求した。
“糸”の1コーラス目が終わった時、櫻井にいつもの自然な笑みが戻ってきた。そして、彼の心が揺さぶられた時もずっとずっとメロディーとリズムを守り続けてきた鉄壁のバンドと、再び調和の歌を響かせた。そしてBank Bandのライヴは至福に包み込まれながら、終わった―――――。
Bank Bandナンバー
●HERO
●糸 |
|
 |
| Bank Bandからバックステージに戻ってきた「櫻井」は、何事もなかったかのように笑顔でスタッフや関係者の祝福攻めに遭い、そのまま一目散にMr.Childrenの楽屋へ戻って「桜井」となった。そこではこれまた何事もなかったかのようにメンバーが笑顔で迎え、リラックスしながらみんなで呼吸を整え合い、着々と準備を進めていったのだった。
「初日とかはさ、凄いバンド(Bank Band)から桜井が帰ってきて、Mr.Childrenでも歌いやすくしてあげなきゃなあとか、凄いメンバーと一緒にやった後だから少しでもスムーズにいったらいいなあとか、いろいろ考えたよ。いろいろ(笑)。でも、もう、そういうことじゃないんだって思えるようになった。俺たちはずっと一緒にやってきて、そこには絶対に何かがあるんだって。だから桜井がここに戻ってきて、俺らがそれを自然のことと受けとめれば、それだけでMr.Childrenは大丈夫だし、いいライヴができるって思えるようになった」(中川) |
 |
 |
| Mr.Children |
|
|
ステージ裏の袖にみんなが集まった。最終日だからといって何かがガラッと変わるわけじゃない。JENは10本の指を開きながら、目をつむって神経を集中し―――それでも誰かと目が合うと、急に悩ましき変態ポーズを取る(ステージの袖でまで、気ぃ遣う優しい男なのです、JENは)。田原は頭の中の自分と文通をし、中川はみんなを見つめることによってテンションを静かに高めている。そして桜井は淡々とイヤーモニターの確認をし、「ホッッホッホッ!」と軽やかなフットワークで体をほぐし、「さあ、楽しく行こう!」と声高に叫び、みんなを誘ってステージに向かっていった。――――そこは聖なる音が集う場所だ。今日で最後の、聖なる地だ。
●優しい歌
●名もなき詩
●未来
●Over
●雨のち晴れ
●ランニングハイ
●I’ll be
●いつでも微笑を
●〜Everything is made from a dream
●and I love you
●overture〜蘇生
●CENTER OF UNIVERSE
●It’s a wonderful world
en to U
昨日のライヴを「果敢にメッセージを放つ矢」のようなものと喩えるとしたら、“優しい歌”からスタートした今日は、「野に咲いたメッセージに水を授ける」ようなものだった。厳しさに立ち向かうというより、厳しさに日々立ち向かっている参加者に、そっと水をかけてあげるようなライヴ。初日はSunnyの静かに張り詰めたキーボードの音から始まったこの曲だが、2日目からJENの3発のカウントからドバッと始まるようになった。今日もドババッと始まったが、昨日に比べてすべての音が笑っていて、それがまだまだ暑さの残る夕空と絡んで、言葉にし難い感覚を与えてくれた。
“名もなき詩”で桜井は、「真実を握りしめる」というフレーズで硬く握った右手の拳を高く掲げた。たとえばこの“名もなき詩”や“ラララ”など、歌詞の意味やタイトルの意味から敢えて逃げ、音楽の本質的な真実の在処を問う歌がMr.Childrenにはあるが、その「名がなくとも素晴らしい音楽」の代表であるこの曲で、会場全体から合唱と両手を前へ差し出す「いつものコミュニケイション」が起こる。―――このステージとフィールドのやり取りを観ていると、ライヴとは「気を送り合うことなのかな」と思う。
続いて『四次元』のトップ・チューンが始まった。歌詞の最初は「名前もない路上で―――」。曲順って、本当に面白い。
『四次元』はタイトルやジャケットデザインからして「ただのシングル、ただのタイアップ・ソングを集めただけのものじゃないんんだ」という覚悟が匂い立つ作品だ。だからして、ここに収められた4曲に優劣やメイン/サブといった概念はない。しかし、総じて語られるのは「未来」だ。“未来”と“and I love you”は未来への儚い想いと願いを歌い、“ランニングハイ”と“ヨーイドン”は未来へ飛び込むスピードと動体視力のようなものを歌っている。そしてその世界を繋ぐ芯にあるのは、この“未来”の中にある「先の知れた未来を信じたくなくて 少しだけあがいてみる」というセンテンスだろう。それこそがap bank とMr.Childrenのレゾナンスだと、この曲を聴いていて強く強く感じた。
「次はほぼ10年ぶりに演奏する曲で、Mr.Childrenの中の名曲中の名曲で―――」というところまでは同じだが、その後で「名曲中の名曲と言っても、決して“オーバー”ではない(笑)」という桜井独特のサインがこの日は聞かれなかったMCの後、彼らが本当の意味でブレイクした『ATOMIC HEART』のエンディング・ソングである“Over”が奏でられた。――――メンバーの表情が緩くていい。久しぶりに演奏するから緊張したり、弾くことや叩くことに釘付けになったり……みたいな感じがまったくない。キャンプのご飯の時に、持ってきたギターで「久しぶりにやろっか」とでも目配せしてから奏でているような、無邪気でカジュアルなムードがある。そのあたたかい心のサークルが、音として届いた。たとえその歌が「悲しみの始まり」の歌であっても、ここではロマンスが芽生える歌として響いた。
田原の乾いたカッティングからレゲエ・フレーバーが香るイントロを持つ“雨のち晴れ”が始まった。“名もなき詩”や“蘇生”もそうだが、田原の寡黙ながらエッジの磨かれたギターのストロークは、Mr.Childrenの一つの代名詞だ。そんな田原が、この曲で楽園的な匂いを放つカッティングを鳴らしている。田原というギタリストの「未来」への予感なのかもしれない。
今日も18:50、暗くなり始めた会場で、真っ赤なホタルのように光を放つステージから「駆けてみよう」と唸る桜井の声が、土の中から響くように聴こえる。その声が高く張り詰めた絶叫に変わった時、“ランニングハイ”が始まった。CDと比べると、浦清英のスゥイングするピアノの印象が強い。そのピアノのグルーヴに導かれたすべての音と参加者が駆け抜けるように弾けていく。浦とSunnyの鍵盤隊、そして河口修二のギター。それらがMr.Childrenの音楽とメンバーにもたらすものは、とても大きい。曲の世界観が大きくなり、打ち込み的なものより生音へのこだわりを見せる今の音楽性で考えるなら、彼らにかかる力はより大きなものへとなっていくのかもしれない。しかし、それはまったく問題のない健全なことだ。メンバーがどうであるとか、そんなエゴイズムが介入できない場所で、今このバンドは音楽を創造していることの何よりもの証明だ。この曲では、4人みんなが浦のピアノのスゥイングに身をまかせて一気に駆け抜けていった。そして桜井は、「駆け引きの世界で 僕が得たものを ダストシューターに投げ込むよ 白地図を広げて明日を待っていたい」―――そんな覚悟を、赤いライトに照らされながら一心不乱に歌い続けていた。
桜井の弾き語りで“いつでも微笑みを”が歌われる。ハープを吹きながら、彼が一人で歌い鳴らすパートだ。しかし、ここでメンバーがステージから下がることはない。筆者はそこに鳥肌を立ててしまった。ここに重要な意味があるのだ。つまり、桜井の弾き語りもMr.Childrenなのだ。みんなで鳴らすわけではないが、みんなで届けているのだ。この姿勢、この気持ち、これがバンドなのだ。これがバンドという魔法なのだ。
「いつでも微笑みを そんな歌が昔逢ったような 悲劇の真ん中じゃ その歌は意味をなくしてしまうかなぁ」
こう問い掛けるような歌だからこそ、桜井の一人弾き語りでライヴが構成され、そしてその問いかけは確実に参加者の中に優しく侵入していた。
JENのマーチング・リズムで“〜Everything is made from a dream”が始まる。そのリズムが桜井の歌を進軍させ、そしてバンドの音で包んだ参加者の気持ちを進軍させる。まるで憂鬱すら進軍させるような、憂鬱を転がして角を磨き、至福を生み出すような、そんなJENのマーチング・ドラムだった。
そして今度は夜空にさらに影を張り巡らせるような、河口のアコギがつま弾かれる。――――今回のライヴのドラマ性における到達点、それがこの“and I love you”だ。ここで会場は盛り上がらなかった。何故か? 唾を呑み込むことすらできないような緊張感と大切な新しいメッセージが目の前に広がったからだ。
「飛べるよ 君にも 羽を広げてごらんよ 一緒に行こう さぁ準備を」
圧倒的に透き通った言葉とサウンド、その極点がこの“and I love you”だ。こんな曲が生まれた連鎖の中にリスナー、そしてフェスの参加者として自分がいることの重みを、新しい名曲のメッセージの中から感じ取っているような、そんな緊迫した時間と空気が立ち込めていた。
今回のライヴの選曲の基準は「メッセージ」だ。そのメッセージを導いたのは『四次元』という作品だ。その『四次元』を導いた大きな要素、それはap bankだ。そう、彼らがずっと前から言い続けている「連鎖」、それこそがここで参加者をも巻き込んで音楽となっていったのだ。
“and I love you”が終わっても、桜井は笑わなかった。―――つまり、終わっていないのだ。ここからまた、続いて行くのだ。
さあ、ここからエンディングまで、もう一回荒波に乗って航海に出よう! そんな気持ちが高まる“overture”〜“蘇生”で再び、そして最後の盛り上がりが始まった。「何度でも 何度でも」という歌詞のフレーズに「そうさ、もっともっとだ。終わりなきライヴを、もっともっと何度でも何度でも」という気持ちが高まり、会場全体が異常な興奮を見せる。少なくとも最前列は、気温が(本当に)3度は上がったと思う。桜井がみんな一緒に歌おうと気持ちを招き入れ、「オーオー♪」と声を張り上げる。参加者もありったけの声を振り絞り歌う。ここで完全にすべての人が「同じ船に乗った」感触を得た。つま恋の広場が船になったようだ。このつま恋船は動くぜ、マジで。
そのままの盛り上がりで“CENTER OF UNIVERSE”に直結した。曲が終わった瞬間、JENと桜井が目と目を合わせて「感じ合って」いた。
まさにエンディング・テーマと言うべき“It’s a wonderful world”で「あなどらないで 僕らにはまだやれることがある 手遅れじゃない まだ間に合うさ この世界は今日も美しい そうだ美しい/鼻歌でも歌って歩こう この醜くも美しい世界で」と歌が綴られ、Mr.Childrenのライヴは終わった。
アンコールを求めながら、最前列の女性がこう、話していた―――「すごいよね、4時間ずっと桜井を観てられたんだよ。でも音楽がいいから、そういうことに気がつかなかったね(笑)。でも桜井って4時間、ずっと走ってたよね? それすごくない?」
アンコールは、このフェスのテーマ・ソングでもある“to U”。
前列には、ステージ向かって左から、Salyu、一青窈、Chara、櫻井、スキマスイッチの大橋と常田、GAKU-MC、そして小林武史。バックには、Mr.Childrenの3人とサックスの山本。つまりミスチルBank。
「これで3日間、初のフェスが終わりますけど、プロデュ?サーとしていろいろな声を聞きました。どうやら大成功だったみたいで(笑)、プロデューサー冥利に尽きます。ありがとうございました。関わったすべての方、何より参加してくれた方々に感謝したいと思います。ありがとうございました」と小林武史からの最後の挨拶の後、櫻井がこう続いた――。
「最後に“to U”をやります。まず身近なあなたに、そしてみんなに、みんなを通じて世界に、宇宙に……このバイブが連鎖することを願って、やりたいと思います」
16小節ずつ、まるでバトンで繋ぐようにシンガー同士が歌を繋いでいった。
「誰かを通して、何かを通して、想いは繋がって行くのでしょう」―――そんなサビのセンテンスが、まさにライヴという生き様になったアンコールだった。
「ほんとどうもありがとう……またやりましょう(笑)」、小林武史はこう言った。繋がろうと音楽で訴えかけたap bank fes 05は、この瞬間に終わった。
ここから再び繋がっていきましょうという意を込めた「またやりましょう」という言葉で、フェスは終わった。最後に出演アーティスト全員が手を繋ぎ、その手と体が線になってみんなが繋がり、繋がったままフェスは終わった。
参加者はみんな、心の底からいい表情を浮かべていた―――。 |
|
 |
最終日。まずは初日と2日目と同じく、会場内打ち上げが行われた。
そこではいろいろなアーティストや関係者による挨拶が行われたりしていた。面白かったのは浜田省吾のご挨拶の時。
「恐縮っす」という意を伝えようと、スタンディング・パーティーだったのに誰かが地べたに座り、それがなんと打ち上げ会場全体に連鎖した。一人浜田だけが立ちつくし、みんながありがたきお言葉を頂戴する儀式に変わった。そこで浜田も人格者たりえる、とても謙虚なメッセージを座っている下々に投げ掛け、会場全体に慈愛に満ちた恐縮ムードが漂ったのだった。
その後、スキマスイッチの芸達者っぷりが評価され、打ち上げでも1曲プレイさせられることになった。この頃、みんなは疲れと安堵感と達成感と酒の力によって天井知らずのハイテンション状態。素晴らしきアーティストを含めたすべての人々が、スキマの上手い誘導によってスキマのヒット曲“ふれて未来を”を大熱唱させられたのだった。
その後もBank Bandのベースの亀田とギターの小倉による終わりなき漫才が続いたり、レコード会社の重役が火を吹いたり、やりたい放題。そんな打ち上げが閉じる頃、櫻井が挨拶をした。
「みんなに『Bank BandとMr.Childrenで4時間のライヴを3日間、しかも野外で続けるなんてすごいね』と褒めていただきました。いや、それよりももっと前からこのフェスに拘って、当日も忙しくしていたスタッフがたくさんいるんです。それに比べたらと思い、僕は“おんがえし”のつもりで歌いました。―――“おんがえし”でいいこと考えたんですよ(笑)。通常の“おんがえし”の“おん”は“恩”ですよね? でも僕の“おんがえし”の“おん”は“音”なんです。だから僕は“音返し”をしようと思って歌いました」
締まったよ、この言葉には。締まったし、閉まったよ。
JENがこう話しかけてくれた。「Mr.Childrenであることに誇りを覚えたっていうか、よかったなあって思いました(笑)。Mr.Childrenをやっているから、プレッシャーもあるし、上手く叩けないなあとも思うし、楽しくないこともあるけど、でもMr.Childrenやってるから、こんな環境のこと考えたり、フェスに参加できたりして。そういうことちゃんと考えるとライヴも楽しいし、上手く行くし、いいことばかりなんですよ。よかったぁ!」
櫻井も挨拶でこう語っていた。「Mr.Childrenという母体がなければ、こんな規模のフェスや環境問題との取り組みもできなかったと思うんです。だからまず、この趣旨にいち早く賛同してくれたMr.Childrenのメンバーに感謝したいんです………ありがとう(笑)」
この櫻井の「ありがとう」が「I LOVE YOU」に聴こえたのは、決して僕だけではなかったはずだ。
そして、街で開かれる二次会に移動すべく、みんなでバスに乗り込んだ。
ここでも収まることなき盛り上がりが繰り広げられた。GAKU-MCがBUS-MCと変名し、バスの中でマイク片手にいろいろな人が弾けさせていった。テーマは「おい、これから俺達、遠足に行くんだぞ、盛り上がろうぜ!」だ。
自分が如何にMr.Childrenが好きかをマニアックなエピソードで披露するスキマスイッチ、一青窈に初恋話を強要するJEN。Bank Bandのライヴで櫻井が涙に溺れていた時、スキマの常田は無心になってカレーを食っていたという話と、一青窈に初恋の話を強要するJEN。Mr.Childrenが好きだしウーロン舎(彼らの事務所)が好きだから、「プーアール舎」という会社を作りますと宣言したスキマと、一青窈に初恋――――つまり、スキマの2人とJENがとことん暴走し、天頂バスならぬ遠足バスは、沸点を落とさずに二次会の場所に到着したのだった。
その後もとことんみんな呑みまくり。「まだまだCD作るしライヴもするけど……それはそれで……これはこれで終わっちゃったんだよなあ。何年か後に『この時が始まりだったんだぁ』と思えることになったらいいなあ」、誰かがぐてんぐてんになりながら(いや、なったからこそ)こんなことを話しに来てくれた。「そりゃそうだよ」と、参加した誰もが思っているだろう。
2005年の夏の始まり、開催2日目の中日に梅雨明け宣言がされた、そんな1年目の「あのフェス」があったからこそ、今が………なんてことが2010年やその先にも語れていたら、どんなに素敵なことだろう。
結局朝まで打ち上がりました。最後の店からホテルへ帰るJENの足取りがフェスのアンコールで登場するときの「変態ダンス」と同じで、一人で歩いていたら本気で職務質問されそうでしたが、そこにはMr.Childrenのメンバーや、それを支えるスタッフがいました。「大丈夫」――――そう思いました。
以上で3日間にわたって繰り広げてきたライヴ・レポートを終わります。このレポートにも参加してくれたみなさん、ありがとうございました!
|
|
|
|
|